920円でワインチラーを作っちゃうぞ!
(その結果・・・・・)
0円でワインセラーが出来ちゃった!



【2017年1月】

現在、我が家にはワインを60本以上貯蔵できる巨大なセラーがある。
ウソ!実は340リットルの冷蔵庫を利用したセラー装置だ。
最初はチラー機構を目標にしていたが意外に簡単にセラーになってしまったお話。

事の始まりは2016年12月。
2年間勤めた地方への赴任生活を終えて我が家へ戻る事になった。
引っ越しが嬉しい!楽しい!
しかし問題が1点だけあった。
わずか4ヶ月前に、地方での今後の生活を考えて大型冷蔵庫を買ってしまったばかりだったのだ。
え〜!?どうすんのよ・・・・これ。
もともと我が家にある冷蔵庫が5年前に購入した400リットルの冷蔵庫。まだ捨てるには惜しい。
そして今回買ったのが340リットル、部屋用の冷蔵庫として使うにはデカすぎるべぇよ。
かと言って台所に2台並べる必然性がない・・・・・。

ところで最近ワイン貯蔵庫を買おうと思っていた。
飲みたい時にネットで注文しているワインだが、1本づつ頼むのが面倒になってきた事と、ネット上の圧倒的な物量に慣れてしまうとわざわざ店に行って少ない種類から選ぶ不条理さも感じてきたのだ。
セラーがあれば、ほしい時に在庫を気にせずストックしておけば良いのであって、それが可能なら金欠になる前に高価なシャンパーニュも買い置きできるというものだ。

チラーとセラーの違いは1点だけで、湿度管理ができるか否かなのだが、温度管理だけなら1万円から売っている。
しかし置き場所も考えるとどうしよう?なのよねぇ・・・・・あら?デッカい冷蔵庫がここにあるじゃないの・・・・・。

Q:冷蔵庫とワイン用クーラーとの違いは?
A:根本的な温度設定レンジが違う。

調べてみると、冷蔵庫は通電しないでおくと数時間後には外気温と同じになるらしい。(季節や設置条件により異なるので一概に算出できるものではない)
では年間を通した室内温度とは?
関東南部の木造一軒家の屋内の場合、真夏の昼で30℃前後、真冬の朝で4℃前後ってとこか。
湿度に関してはコルクを乾燥させなければ2年間は問題ないようだ。その分熟成は進まないようだがそこまで管理する気はない。
ワインの適正温度を14〜18℃とするとヒーターも必要となる?・・・・・なんか面倒になってきたぞ・・・・。

とりあえずもっと妥協してみよう。
・湿度は当面無視しよう。
・庫内の温度が18℃以下ならOKとしよう。

さて、具体的なシステムを考える。主な構成は、
@センサー
ACPUとコンパレータ
B表示
Cリレー
となる。
久しぶりにPICの出番だぁ!と喜ぶ。

@センサー
いわゆるサーミスタ、いわゆる熱電対だ。
その昔、大学の研究室でキャブチャンバーの空洞温度測定の際に熱電対の性能比較テストを行った事がある。
当時は10万円したものが今時はシールドされた高精度タイプで200円だから泣けてくる。

このサーミスタは、10KΩ25℃、ケルビン3435なので、例えば15℃に設定したい場合は、
R=10k*e(3435*((1/(15+273))-(1/((25+273)))=10k*e(3435*0.0001165)=10k*e(0.4001775)=10k*1.49209=14.9209kΩ
を基準にすればよい事になる。

ACPUとコンパレータ
CPUは当然のようにPICでA/Dコンバートが必要。
コンパレータはヒステリシスがあればOKなのだが、この2つを結線する事を考えたらコンパレータ内蔵のCPUを選択したほうが賢明だ。
そして表示で3桁必要だからそれだけでも最低11ピンは必要。
よってなんだかんだで最低でも20ピンは必要。
だからいつもの16F88は使えない。そこで16F873Aを使ってみよう。
28ピンもあるから使いたい放題!
面倒なのはA/Dの分解能、また頑張って10ビットでやってみるか!
毎年じわじわと高騰しているチップだがそれでも400円くらいで膨大な時間を遊べるのだから安いオモチャだ。

B表示
7セグメントLEDを使うと1桁で8個必要で24ピン必要になるが、大抵はコモンなので切り替えの3ピンさえ確保すれば、8+3=11ピンで済むという仕組みだ。
これは0.1デューティ、パルス周波数0.1msだからできる技。

尤も人間の視覚能力だけで言えば、33msで切り替えれば動体として認識してしまうので、その300倍もの周波は必要ない。
だから10倍のマージンを残して切り替えプログラムを組んでもまだ余裕である。

Cリレー
冷蔵庫は最大消費電力が2A無いので10Aを想定しておけば問題ないだろう。
omronが欲しかったがパナでも許す!

という事で、プログラムステップ数は1kってとこだから、製造も含めた工数は0.25人月、工期は1ヶ月ってとこか。
費用は上記合計920円+手持ち材料ってとこだな。





とまぁ、フツフツと工作の虫が疼いてきたところで、何気にリンクを辿っていって衝撃的な事実を知ってしまった!

なんと、上記の全部が組み上がった状態の製品(MK-319)が存在していた!

え〜?それなら作らなくていいじゃん!?
ん〜・・・・でも4千円じゃ、ちょっと高いな・・・・これならやっぱり作った方がいいや!

・・・・・と、そこからまた関連のリンクを辿っていたら、今度は本当にひっくり返ってしまった!

な、なんと!同じ機能の完成品(XH-W1209)が240円!!!

もう・・・・・作る意味無いじゃん・・・・・ってか、CPUと同じ値段でサーミスタも表示盤もリレーもプログラムも組み立ても動作テストも、ぜ〜ん終わっていて240円!?

しかも送料無料って・・・・なんかセコい詐欺にあってるんじゃね?・・・・おれ・・・・。
でも100件あるレビューは全て真面目に書き込まれているし。

しかも国際郵便のハンデを吹き飛ばす細かな設定解説のページを発見!

もう一回言おう!
もう・・・・・全く作る意味無いじゃん・・・・・やめた!やめた!・・・・って事で、思わず3つも買ってしまった!

さて、この基板には電源が付いていないため別途必要。
データシートでは最大65mAなので500mAもあれば十分だ。
これは在庫があるので問題なし。

次にケース。
48×40×20なのだが、LED盤がリレーより低い位置に固定されているので、アルミケースには入れられない。
スケルトンのプラスチックケースや足も在庫があるのでそれを使う。

後は100Vの中継コードだがそんなものいくらでも転がっているので終了だ。

あれ?なんだよ!何も工作するものが無かったな。
まぁ、これで冷蔵庫改クーラーが出来上げれば安いものだ。
結局掛かった費用は基板の240円だけじゃん!(3つ買っちゃったけど・・・)

モードによって「上限値でON」と「下限値でON」の選択ができるのだから2つ組み合わせたら下限〜上限の設定きるんじゃね?
と一瞬思ったのだが、考えてみれば冷蔵庫に下限設定は無いので「氷点下の屋外で保管するくらいなら冷蔵庫に仕舞おう!」でいいでしょ!って事だ。
そもそも冷蔵庫の定義とは「室温が15〜30℃において冷蔵室内を0〜10℃の範囲で調整ができること(JIS規格)」だそうだが、
外気温が庫内温度より低い場合は、冷蔵庫は保温効果により、逆に設定温度に近い温度を保つようになっている。
言ってみればただの保温室となってしまうだけの事。(ちなみに冷蔵庫の最高設定温度は8℃前後だそうだ)

という事で具体的な設定だが、この製品を日本で使ってる人の殆どがアクセスしているであろう上記の資料に基いて以下の設定とした。
(前提として最初に必ずキャリブレーションを行う事)

@庫内温度が18℃以下ならリレーOFF。(冷蔵庫電源OFF)
A庫内温度が18℃を上回ったら3分間のインターバルを置き、依然18℃を上回っていたらリレーON。(冷蔵庫冷却開始)
BAの場合、冷蔵開始して18℃を下回っても14℃まではリレーON(冷蔵継続状態)で14℃になったらリレーOFF。(冷蔵庫電源OFF)
-----------------------------
温度設定:18
P0:モード:C
P1:ヒステリシス:4
P2:上限温度:初期値
P3:下限温度:初期値
P4:温度補正:初期値
P5:遅延時間:3
P6:高温アラーム:初期値
-----------------------------
とする事で、少なくとも14℃までは冷却する事から、このモジュールを組み込んだ場合の仕様としては「14℃〜18℃を維持」と考えてよいだろう。

ちなみに余談だが、基板購入時に「ブレッドボード用パワーモジュール」が155円で売っているのを発見し同時に買ってしまった。

データシートが付属していないのでレビューを読んだ限りだが、DC9-12V入力で3.3Vと5.0Vをブレッドの左右にパラレルで供給できる素敵なモジュールだ。

USBの5.0V供給も出来るのか!?って期待したけど、これはハズレ!5.0V出力だった。残念!

ブレッド左右のピンにスポッと収まり、それぞれのパワーラインに3.3Vと5.0Vを可変で設定できるモジュールが155円なんて凄すぎる!

以前に自分で製作したAC100V⇔DC3.3V/5.0V/12.0Vの出力変換器は、左右に出すぶんだけ12本の配線をし、しかも3ブレッド同時に使えるように36本の配線が入り乱れた仕様で数千円掛けた壮絶なツールとなってしまった過去がある。

ところがこれを使えば3ブレッドでも155円で済む。
何故ならば、左右のパラ設定の他に中央部に5.0Vが2本、3.3Vが2本出せるショートピンが並んでいるのだ!
進化というには悔しすぎてもう笑うしかない訳だ!
(尤もAC-DCコンバート機構が無いのであたしの勝ちだ!ガハハッ!・・・・・寂しい・・・・)




・・・・・と、ここまで計画しておいて、

またまたそれらが一瞬で全部飛んでしまうような衝撃的な事実が発覚!!



赴任先の340Lを搬入する際に寸法を確認すべくサイトを調べていたら、この冷蔵庫の特徴のところで、
-----------------------------------
●ホリディモード 長期出張の前に「ON!」
急な出張などで冷蔵室内の掃除・乾燥の時間がないときにON。
冷蔵室内を17℃に保つので消費電力を抑えられ、長期間閉めたままでもにおいを軽減する事ができます。
-----------------------------------

なにぃ〜!!!???

それじゃ、この冷蔵庫は初めからスイッチ一つでチラー室になる仕様って事だったのか!?
早速メーカーに電話して確認する。その結果、

・ホリディモードは設定しっぱなしの継続運用、つまり庫内を17℃に維持する事が可能という事だ。
・冷凍室は完全分離なので通常通りに使用可。
・湿度を70%以上に維持した場合の霜取り機能は、冷凍室が別管理なので全く関係なし。
・ヒステリシスはプラス・マイナスともに社外秘だがゼロではない。

という事で、改造する際は冷凍機能は切り捨てる覚悟だったので、まさに願ったり叶ったりではないか!!
3つも買ってしまった基板はどうしてくれるんじゃ!・・・・なんか・・・・疲れた・・・・・。
(鏡面仕上げの操作パネルに映り込んじゃってるし・・・)





ところで湿度の話。

ワインにとって最適な湿度は65〜75%らしいのだが、最初はその数値から加湿器や湿度調節器ばかりに目がいっていた。
しかし調べを進めると冷蔵庫の庫内容積程度なら水を張ったトレーを置いておくだけでラベルが湿るほどの湿度になるらしい?事が判ってきた。

だとするならば、とりあえず湿度計で様子を見て、水の表面積を変えて試してみたらどうよ?に気付いた。

・・・って事で「920円でチラー」どころか「240円でチラー」どころか「0円でセラー」が見えてきた!

尤も、この冷蔵庫自体が実勢で8万円前後なので、それを考えればわざわざ買う事はあり得ない。
しかしこうした再利用対策としては、一切改造する事なく、しかも3段119リットル(JIS9801版)の冷凍庫は現役でそのまま使えるという夢のようなシステムがタダでできあがった事は怪我の功名というべきか。
別途ワインセラーを購入していたら新たに数万円の出費だったのだから。





さて、装置のメドが立ったら、次は庫内の改造。
といっても仕切りを外してラックを置くだけ。
221リットルの容積は、突起部分を除外した有効正立方体だけを考えると、幅480mm、奥行400mm、高さ780mmで有効体積は150リットルとなる。

奥行は1本分なので、開口面積だけで考えると3744cm^2となり、φ75mm瓶を56cm^2の正方形として66本の収納が可能。
しかし綺麗に並べて整理するデザインを考慮すると単純に24本程度になりそうだ。

さらにウィスキー、日本酒、焼酎、ジン、リキュール等の酒類の一切を格納しながらも、高さを利用してのグラス、水割り用具、カクテル用具なども収納したいので、本来の棚を利用して仕切りを設ける。
そうする事で最終的に寝かせるワインは12本程度の保管が可能となる想定。

まぁ・・・・・12本もストックできるならいいんでないかい!!
・・・・って事で選んだラックがこれ。(→)

14本用で6,000円とちょっと張ったが、数あるワインラックの中でいちばん気に入ったデザインだった。
高さが240mmでボトルを置くと300mmだから上部に480mmの空間が出来る。

冷蔵庫に付属している強化ガラスの仕切板をその上に掛ければ上記構想の完成形が見えてくる。

その結果がこれだ。(→)

まぁ、計算通りというか、想定通りというか・・・・。
しかし、庫内の白壁の清潔感と淡緑の強化ガラスがLED照明を反射してちょっと幻想感を演出しているのは想定外で存外嬉しい。

最上段にはシェーカーやグラスを収納できて、これまた磨き上げたクリスタルが白色のLED照明をよく屈折して、下の淡緑に反射して美しい。

夜中に暗闇でドアを開けると「お帰り!」とキラキラしながら皆が喜んでくれているようで自分も嬉しくなる。
17℃である庫内のドアを開けたまま暫く見とれていても、冬であれば外気のほうが低いので何も問題ない。

ちなみに119リットルの冷凍庫は、400リットルの冷蔵庫のそれより大きく、スーパーの買い物カゴ3個分以上の食品が収まるスペースだ。

ここにロックアイスを6kgほど、つまみ用の加工食品やらフランスパンやら晩餐用のランプステーキやらをドサッと入れておけば、飲み会専用貯蔵庫の出来上がりである。

なんか嬉しくて一人はしゃいでいたら、誤ってリーデルのオヴァチュア350mlを割ってしまった・・・・。

なんだかんだで最後のリーデルだったので、ちょっと奮発してヴィノム350mlを購入。

リーデルは一度手にしてしまうと、その軽さ薄さ、そして口当たり加減が他のグラスを全く寄せ付けない代物で、その満足感と高揚感も酒を美味しく飲むポイントだ。

さて、湿度。
ここからいよいよチラーからセラーへの変貌を遂げる工作だ。

最初に単純なホリデーモード(17℃)のみの湿度を測定しておく。
流石冷蔵庫!10%ってスゲ〜!
チラーの完成とは言え、標準装備は冷蔵庫なのだから当たり前の事か。
さぁ、これを70%まで上げるにはどれだけの表面積が必要なのか?
楽しみだ!

まず最初は開口径120mmの皿。
表面積は113cm^2。

そのまま24時間放置で45%
あれ?案外少ないんだな・・・・。

ところで庫内温度が6.4℃なのは何故か?それは「現在の外気温が6℃」だから!
先にも書いたが、そもそも冷蔵庫の定義とは「室温が15〜30℃において冷蔵室内を0〜10℃の範囲で調整ができること(JIS規格)」なので外気温より高い17℃に維持しようとすること事態がナンセンスな訳だ。
つまり庫内温度はこれから春に向かってグングン上昇し、気温が17℃を超える頃にはサーモが働いて17℃に維持してくれる・・・・という事だ。
こればかりはヒーターを組み込まない限り解決の方法はない。
まぁ・・・・そこまでやらんでも・・・・・である。


次に開口径170mmの皿で実験。
表面積は227cm^2でちょうど2倍。

68%
お〜っ!しゅう〜りょ〜!

意外に簡単にキメる事ができた。
あとはこの表面積の近似で効率のよいアルミトレーを探して設置するだけだ。



こうして0円でワインセラーが出来ちゃった!が完成した訳だが、一方で課題も山積している。
@電力消費からくるコスパの検証を実施すること。
Aホリデーモードとマイルーム庫内温度の格差是正が出来るのか?要検証。
B湿度変動が発生するのか?要検証。
Cそもそも飲み過ぎじゃね?

ん〜・・・・・早急に解決すべき課題はCか・・・・。
まぁ、総論としては満足のいく出来栄えとして捉えている。
さて次は何こさえっかなぁ!







(おしまい)